相変わらず遅筆で失礼いたします。さて、今回は企画に協力している義太夫音源CDの紹介です。「花もよ編集室」から「花もよCDシリーズ」というものが出されています。 義太夫関連では、武智鉄二著「古典は消えて行く、されど
- レコードに残された名人芸 -」 20枚組CD付、初代鶴澤道八名演集、10代豊竹若太夫名演集 (1) (2)、豊竹古靱太夫名演集
(1) (2) (3) (4) と数が揃ってきました。
武智鉄二 「古典は消えて行く、されど…」では、数々の芸談に登場する竹本摂津大掾ら明治・大正・昭和の名人たちの稀少音源を聞くことが出来ます。太夫では、摂津大掾、法善寺の津太夫、三代大隅太夫、三代津太夫、六代土佐太夫、二代古靱太夫、七代源太夫、四代大隅太夫、越登太夫、八代綱太夫ほか。三味線弾きでは、六代広助、三代団平、松太郎、三代清六、六代友次郎、道八、仙糸、七代吉兵衛、四代清六ほか。一部は当サイトのアーカイブズ/名人のおもかげ記録でも聞けるものが有りますが、その全容を知ることはこのCD集が出るまで不可能でした。これらの音源を通して、黎明期の近代義太夫節とその芸系に出会うことが出来ます。そして、息遣いや間に名人達の極めた生き様を想像させます。是非、武智の文章も読んで欲しいです。
また、武智鉄二「古典は消えて行く、されど…」のdisc1(道八芸談 文庫版 添付CDと同じもの)と、初代鶴澤道八名演集を合わせると、もはや復刻されないと思われていた四代大隅太夫・初代道八の「ひらがな盛衰記 逆櫓の段」「源平布引滝 松波琵琶の段」「壺坂霊験記 沢市内の段」などといった道八の名人芸すべての音源が収録されています。音の良いポリドール盤音源も聞けます。
さらに若太夫名演集では、熊谷陣屋や忠臣蔵九段目といった難物を正面から渾身の力で語り尽くす、古風で魂のこもった義太夫を聞かせます。人間国宝に認定されたほどの太夫ですが、タイヘイやマーキュリーといったSP盤の退場からテープやLP盤への移行期にあたる音源ということで、時代が新しいわりに入手しづらかったものです。
最後に、古靱太夫名演集は、近代義太夫節の体現者、二代豊竹古靱太夫(後の豊竹山城少掾)の残したニットー盤やビクター盤から、原作解釈や芸の変遷が追えるように復刻編集されたものです。三味線の鬼神・三代鶴澤清六や四代清六、浄瑠璃を生かす三味線弾き・六代友次郎らも聴きどころです。
花もよ編集室では、音質にこだわるもCDパッケージなどは簡素化し、音源もボランティアで提供されており、安価で入手できるようになっています。時代の移り変わりを見ると、これだけの埋もれた稀少音源がCDで揃うのは、数少ない機会と思われます。これから義太夫を聞いてみようと思っている人にもおすすめのCD集です。さらに古靱太夫と若太夫音源のCD復刻は続くそうですので期待しましょう。
毎度おつき合いいただき有り難うございます。次回の特集も検討中です。今後とも、宜しくお願い致します。
2017. 11. 22 大枝山人