いつの間にか年を重ねているうちに襲名のニュースで馴染みのある名前を度々聞くようになった。先日、ある古書会で古本屋さんが持ってきた公演パンフを読んでいたところ、昭和42年道頓堀朝日座であった五代豊竹呂大夫襲名披露のものを見つけ懐かしく読みふけってしまった。当時の顔写真を見るとメンズクラブ誌にVANの服で登場するようなイケメンである。当方が劇場に行くようになった頃には、五代呂大夫は既に年季が入ってその雰囲気に何となく華があり、そしてその芸の節々には常に前を向いた真面目さを感じさせ、義太夫を聞くのが楽しみな太夫のひとりであった。名鑑などの経歴から知ったことであるが、年少から義太夫を習い、十代若太夫(三代呂太夫)に見いだされた人であり、芸談には朱など浄瑠璃研究を通した深い思索と実演における不断の努力が窺えた。これから芸の集大成という絶好の位置にあったので、この人の急逝は返す返すも心残りなことであった。
この度、芸の系統が近い英太夫が呂太夫の名跡を継ぐことになった。実力本位の文楽でも襲名で文楽界の家出身の方が多くなってきたことは気になるが、どうか身体にはくれぐれも気をつけていただき、次の新境地を開かれることを切望したい。
さて、特集におつき合いいただき有り難うございます。今回、「古典は消えて行く、されど - レコードに残された名人芸 -」の再刊がありましたので、四代豊澤仙糸の追加音源を取り上げました。次回の特集も検討中です。今後とも、宜しくお願い致します。
2017. 3. 13 大枝山人