若い頃、鬼才 武智鉄二の評論「『風』の倫理」を初めて読んだ時、その理知的でかつ圧倒するような文体からその魅力にぐっと引き込まれた。また、辛辣な劇評は、見たこともない文楽座の舞台での演者と鑑賞者の真剣勝負のような様を想像させた。その武智がレコードに関する文章も残している。SP盤の名演紹介の記事「古典は消えて行く、されど
- レコードに残された名人芸 -」である。山城少掾をはじめ嘗ての名人とそれを偲ぶSPレコードを時代の証人の如く語っている。初出は、雑誌の連載で、全集「定本
武智歌舞伎 3 文楽舞踊」にも収められている。昭和50年代初頭に書かれたもので、失われていく伝統芸能の音を追憶し、時代批判も匂わせたものだ。そこから、さらに時代は移り変わってしまった。
このたび、紹介されているSP盤の音源も一緒に添付されて再発行されることになった。「花もよ編集室」の努力によるものである。「古典は消えて行く、されど 」は、当方が義太夫SPレコードに興味を持つ事になった原点であり、記載されている音源を聴くことは長年の夢であった。今回、再刊の企画に賛同して、収録音源の一部を協力している。現在、第71回 文化庁芸術祭の参加作品としてレコード部門にエントリーしており、正式な発売は11月末予定となっている。「名人のおもかげ 資料」に続く読み物として、どうか期待頂きたい。
次回の特集は、音源集などの補足を中心に企画を検討中です。今後とも、宜しくお願い致します。
2016. 9. 25 大枝山人