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近松座絵はがき 人形浄瑠璃の図と近松座内部

                   


特集30 編集後記

 近年、近代期における建造物の再評価と再利用が進んでいる。豊かな時代になり、文化的な付加価値や失われた時の追想など心に響くことを、人が求めているということだろう。そしてまた、活字・メディア表現や追体験などで改めて記憶に刷り込まれることで、明治・大正・昭和が古典の世界になりつつあるとつくづく思う。

 今から約百年前、明治四十五年一月に近代的な人形浄瑠璃劇場「近松座」が寿式三番叟や座名に因んだ近松の傑作 国姓爺合戦などで初興行を行った。人形浄瑠璃の発展や至芸の継承ということで志を掲げ、大阪の有力者や財界人らが中心となって、資本金を集めての株式組織で立ち上げた劇場である。場所は、大阪、佐野屋橋南詰角。外観は洋風で、内部は白木作りの御殿構え。時期的には、中之島図書館と公会堂の間の時期の竣工である。当時の番付から想像すると、白木の香りがする新築の劇場に、彦六系統の元堀江座一党が集まり、そして、近世の名人と謳われた紋下 三代竹本大隅太夫の翁となれば、観客はさぞ心躍ったことだろう。

 しかし、劇場経営が思うようにいかず、大隅太夫の退場、伊達太夫の移籍もあって、わずか数年で劇場の時計の針は止まってしまう。その後、年号が変わり、時代の要請から建物は改修され、昭和五年一月に四ツ橋文楽座として、再び劇場の時計の針が動き出す。三巨頭の競演、戦災による焼失と戦後復興。昭和初期の舞台の中心がそこにあった。そして高度経済成長期前夜に劇場の時計は役目を終えた。もう人々の記憶の中から忘れ去られている事であろうが、確かに近代期の劇場は存在していた。

 さて特集30は、七代源太夫のニッポノホン盤音源を追加で取り上げました。源太夫は、張りのあるいい声です。泣き笑いの語りも絶妙ですね。それから、新しい企画として「名人のおもかげ資料」の公開を始めました。以前、神田の古書店から入手したものですが、今から約60年前の昭和25年から昭和28年にかけて放送されたNHK-BKラジオ番組「名人のおもかげ」の放送記録をまとめた資料と推測されます。「名人のおもかげ」は、明治・大正・昭和に活躍し、放送当時は鬼籍に入っていた芸人の人物と至芸を紹介する番組で、安原仙三氏の所蔵するSPレコード音源を中心に当時の有名な愛好家による解説やゲスト対談などが電波に乗りました。数多くの義太夫音源が復刻された現在、名人と録音された時代に想いを馳せるよすがになるでしょう。次回の特集は、「名人のおもかげ資料」の補足を中心に企画を検討中です。今後とも宜しくお願い致します。

     参考: 浄瑠璃研究書 木谷蓬吟 (第一書房)、文楽の歴史 倉田喜弘 (岩波現代文庫)  

2013. 12. 29 大枝山人