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明治・大正期絵はがき 大阪御霊神社

                   


特集28 編集後記

 今年は、竹本義太夫の300回忌の年。また、近松生誕360年ということで記念公演や行事が続くそうである。何やら昨年より文楽関連のイベントも目立つように感じてきた。 
 4月からは春本番。勧進公演では、近松時代物の復曲 用明天王職人鑑「鐘入り」。宝永2年 (1705) に竹本座が、義太夫・作家の近松・座元の竹田出雲の新体制で作り出した第一作で、出語り出遣い、からくりや派手な舞台など趣向を凝らし、座の発展の出発点となった縁起のいいものである。そして本公演は、近松晩年の世話物傑作 心中天の網島「河庄」「紙屋内」「大和屋」「道行」。近松の文学性は近代になってから再評価され、原作を尊重する考え方も大正6年3月 (1917) 御霊文楽座上演より始まったものである。また、楽しみと同時に、夏に向けて貴重な石塔の修復や厳粛な義太夫忌といった歴史的な継承の時に居合わせる充実した年となりそうである。
 こうして三百有余年を経てきた義太夫節も、決して順風満帆ではなかった。人の好みも移ろいやすく、また幾度もお上による指導もあっただろう。その度に盛り返すことができたのは、芸系の確かな継承、作品研究、新しい趣向、興行の采配や時代の追い風があり、それらから温故知新の心で同時代性を見出してきたからだろう。今後、ポスト近代がどのような時代になるのか分からないが、記念の年を大いに盛り上げ、新たな歩みを三業、観客、サポートする公的機関等が協働しながら一緒になって続けていけたらと思う。

 さて特集におつき合いいただき有り難うございます。今回は、古靱太夫(山城少掾)の若手時期と三代清六師の櫓太鼓曲弾きを取り上げました。折しも、昭和3年に古靱太夫と四代清六が吹き込んだ「岡崎の段」のニットー未発売盤が発見され、先月その復刻音源が大西氏とコロンビアの手によってCDとなりました。大西氏の解説に記されてあるように、その存在は書伝で伝わっていましたが、一組のテスト版レコードが戦災と震災を生き延びて復刻されたという幸運には感激しました。古靱太夫の音源は近代義太夫節足跡の具体的な記録であり、かつ規範です。保存に尽力された方々に感謝するとともに、義太夫300回忌の今年 幻の音源を聴けるようになったことに縁を感じます。
 その他、サイト関連のIT環境の整理に伴い、ファイルを移転統合し、内容やリンクが古くなったものを一部更新しました 現在、次回の特集と展示は、企画を検討中です。年明けから忙しく更新が遅れ気味ですが、今後とも宜しくお願い致します。 

2013. 3. 24 大枝山人