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文楽座 明治十九年十一月 紋下:竹本越路太夫、豊澤廣助、吉田玉造 碁太平記白石噺

                   


特集48 編集後記


 近代に何度も大流行した感染症にコレラがある。その度に日本全国に甚大な被害を及ぼしている。元は、通商船や軍艦によって海外から持ち込まれたものだそうだ(日本におけるコレラ 北里柴三郎) 。明治十九年二月から文楽座は御霊の劇場を改築するために古巣の松嶋の劇場で興行していたが、五月興行中に再びコレラが流行し諸興行一切停止の命令。ようやく十一月に開場したが、この間に多くの人が罹患している(大阪の芸能 文楽の歴史 吉永孝雄)。 上記の番付は、再開した十一月のものである。
 今回の新興感染症でも世界中で多くの方が亡くなっていること、心からお悔やみ申し上げます。まだ完全な沈静化を見ていない中ではあるが、少しずつ社会活動が再開している。後を追って娯楽や余暇を過ごす活動も警戒レベルを下げながら再開し日常を取り戻していくのだろう。しかし、劇場文化や伝統芸能は新しい生活様式への対応には限界がある。直接に人と人とが時空間を共有することでその真髄に触れれるものであるから。また海外も含め、主だった劇場は公演動画の提供をしているが、公演中の劇場の空気はやはりそこにいるものにしか分からない独特のものがある。それは、インターネット越しでは決して味わうことはできない。しばらくの間、確かな標準となる治療や予防法が確立するまでは今後の状況も流動的だと思いますが、こんな時こそ気力・体力を充実させて待っていましょう。

 さて、毎度おつき合いいただき有り難うございます。今回の特集は、4月公演を想定して義経千本桜の希少音源を紹介しました。三代大隅太夫と三代清六による鮓屋の音源では、雑音で大隅太夫の語りは聞き取りにくいながら、清六の冴えた三味線の音が印象的です。そして数ある道行初音旅の音源の中で二代越名太夫(四代南部太夫)の静御前、三代相生太夫の忠信という組み合わせのものです。次の企画も考えますので、今後とも宜しくお願い致します。

2020. 6. 2 大枝山人